12章 救助転生を終了します

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 (不思議なやつだったな……。)  そもそも、救助転生がどういうのかすらまだ分かっていない。まさに「不思議なもの」だ。  でも……救助転生が無ければ、例え勝輝と再会していたところで、ここまで戻れたかは分からない。  あれから、勝輝は国内で活動しつつ、ずっと自分の傍にいてくれる。料理も上手いし、演奏の指導もちゃんとしてくれる。  自慢の兄、そんな思いが、日に日に大きくなっていく。  だが……やはり思ってしまう。ここに、他の家族がいれば、と。それは勝輝も、口に出しはしないが、同じ気持ちだろう。  そう思うと、救助転生内だけでも会えた自分は、幸せなのかもしれない。  (誕生日に……最後の救助転生……。)  多くの人に会わせてくれて、自分を大きく変えてくれた転生が終わる。それも、自分が19歳になる節目の日に。  そっと起き上がり、枕の位置を調整して背もたれのようにする。  開かれたドアの奥からは、ピアノ音源に合わせて、勝輝が弾いているらしきバイオリンの音が響いてくる。  (やっぱり……勝輝の演奏って、優しいな。)  人の癖が出やすい演奏。もちろん純と勝輝、利津と自分、それぞれの演奏を聴いた時の印象は全く違う。  純は力強いが繊細な音、利津は音の粒が揃った几帳面な音、自分はアレンジが際立つ自由な音。  勝輝が、そうやって教えてくれたことがある。勝輝の音は、楽譜に忠実で、でも素人では分からないレベルのアレンジが入っていて、何よりも優しい音なのだ。  まるで、家族といた時に弾いていたような、そんな音がずっと出ている。いつ、どんな時でも。  だから、自分はここまで、安心出来るのだろう。きっと、いや、絶対。
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