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「へぇ、俺の音が優しい?」
夕飯の時、食べやすいようにと作ってくれた粥を口に運びつつ、勝輝と談笑する。
「うん、めちゃくちゃ安心する音なんだよ。何て言うんだろ、凄い寄り添ってくれているっていうかさ。んー、表現難しい。」
伝わるよ、と笑った勝輝が食べているのは、自分と同じ粥。好きなの食えよ、と言ったら、1人だけ違うのも嫌だろ、と笑われて終わった。
「なるほどな。でも、その表現は正しいかもしれないな。」
「どういうこと?」
「そうだなぁ……。」
お茶を一口飲んだ勝輝が、ふっと微笑む。
「俺が演奏している時、俺の目の前にはさ、必ず家族がいるんだよ。望美も、父さんも母さんも、じいちゃんもばあちゃんも、みんないるんだ。」
ふと食べる手を止めて見た勝輝の目は、とても優し気だった。
「世界の演奏を、家族に聴かせたいんだ。俺の背をずっと押してくれていた、大切な家族に。もちろん、安らかに眠れ、という気持ちも込めて、な。」
あぁ、と思い、滲んだ視界を戻すために目を拭う。自分と同じだ、全くと言っていいほど、同じ状況で演奏しているのだ。
大きな温かい手が頭に乗った。
「お前も同じなんだろ? でも、お前の場合は、特に望美の演奏を引き継ごうとしている感じもするんだ。」
「え、それは……」
「分かってるよ、意図せずってことだ。凄い事なんだぞ、それ。望美に教えてもらわず、ずっと演奏を聴いてきた紅陽だからこそ出来ることだ。」
涙が溢れる。自分が宮音で、グルーデン教授に教えてもらうことで、姉の演奏が消えてしまうと思っていたからこそ溢れた、安堵の涙だった。
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