36人が本棚に入れています
本棚に追加
心の整理が上手くつかないまま、気が付けば誕生日になっていた。
「紅陽、誕生日おめでとう。お前は酒豪夫婦の息子だから、酒は強いと思うよ。でも、20歳までは我慢な。」
そう笑って勝輝が買ってきてくれたのは、父と約束していた、白ワインだった。
『紅陽、お前が20歳になったら、俺や勝輝、美琴や望美と、この白ワインを飲もうな。』
海外旅行に行った時、初めて夫婦で飲んだワインだったらしく、子供達と飲むことをずっと楽しみにしていたんだ、と言っていた。
勝輝と買った、家族分のグラスにワインを注ぎ、仏壇から持ってきた遺影の前に、キャンドルと共に置いて行く。
わいわい騒ぐのは嫌いだという紅陽のため、と、勝輝が用意してくれた誕生祝いの席。目の前に並ぶのは、かつて家族が作ってくれていた思い出の料理達。
(あのレシピの通りだ……。)
母や父、望美や祖父母が作るたびに書き留めていたらしい、それぞれの得意料理のレシピがまとめられたファイルを見つけた数日前。
勝輝が「作ってみてもいいか?」と嬉しそうに言ってきたのは記憶に新しい。
そっとグラスを宙に掲げ、一口飲むふりをする。不思議な芳香が鼻をくすぐり、来年にはこれを飲むのだ、という気持ちが溢れた。
「紅陽、俺達からのプレゼントだ。開けてみな。」
勝輝から手渡されたのは、長方形の、少し深さのある箱だった。
「でかすぎないか?」
「なんたって19歳、10代最後の誕生日だぞ。世界で活躍して得た資金を持った俺は、ほぼ無敵だからな。」
なんだそれ、と笑いながら箱を開けた時、はたと手が止まる。
「言っただろ、俺達からって。」
勝輝の穏やかな声が聞こえ、涙が溢れた。
最初のコメントを投稿しよう!