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小花は結局、ウンとは言ってくれなかった。
でも、
『おんな遊び辞めれば、彼女になってあげる』
とは、言ってくれた。
「先生! 先生!」
日本食レストランを出てすぐの歩道で、僕の手を握って、小さな……5,6歳くらいの女の子が話しかけてきた。
『お花買ってください』
その子は立ち止まった僕をまっすぐに見て、赤いカーネーションのような小さな花束が籠一杯に入っているそこから、一束掴んで僕に渡そうとした。
『悪いけど、ここで商売しないで……』
僕達を見送りに出ていた初音さんがその子と僕の間に割って来た。
『悪く思わないで……』
聞こえていたか分からない……
初音さんは小さな声で誰に言うでも無く呟いて、肩を落として大きな歩道を歩いて消えていくその子を見えなくなるまで、茶色の瞳で見送っていた。
既に20時を過ぎた街の喧騒に、小学1年生くらいの女の子が一人、街で花を売る。
「また、よろしくお願いします! おやすみなさい!」
初音さんはそう言って、店の中へと消えていった。
僕はこの店で今晩、5,000円を使った。
この街の中では、二人で食べる食事代としては多い。
そして、彼女の持っていた花は一束、50円だ……
彼女の籠全部の花束を買ってもおつりがくる。
考え方の違いだ。
持てる者は使えば良い。
施しのように小さな女の子の花束を買えばいい。
彼女が純粋に花束を売っているのなら、それでいい。
でも、ここの国では、彼女の後ろにそれを纏める大人がいる。
子供だからだと、夜に花を売る少女が不憫だからだと金を出しても……
決して、その子の生活は良くならない。
後ろの大人が喜ぶだけなのだから……
ここの普通だ。
……知っている。
『彼女もヘイハイズよ』
小花が僕の手を握りながら肩にもたれかかってきた。
『ここの店に来るような人は、お金に余裕があるじゃない。だから、そういうところで花を売る……
彼女なりに考えたんだろうな……
でもね、どうなんだろうね……
本当はそんな事が起こらない世の中をつくるのが正解なんだろうけど……
ここは、そんな余裕は無いんだと思う。綺麗に着飾って、街は大きな高層ビルで、大都会のように見せかけて、でも、実際は、ここで生活する人は99%の人は余裕が無いのよ。煌びやかな生活を街は見せて、それが行きつくゴールの様だと見せて、いつかは自分もそれになれる様な気にさせられているけど、自分の事のように思っているけど……
実際にそんな余裕のある人なんて少なくて、いかにそんな風に見られるかにばかり気を使って出来たのが、ここの風景なのよ。
だから、あの子の様な見せたくないものは、ひっそりと街の裏で暮らすしかない。
一生……
表には出れない……
一生、煌びやかな街の風景になることは無い。
出来ない。
そして、いつかは、あの子も、売り物になって、お店に並ぶの……
それが隠しようのないこの国の現実なの』
この街ではお金で買えないものは無い。
金さえあれば、何でも手に入る。
でも、それは、この国で人として認識されている者に限る……という事だ。
(第一章 終わり)
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