第一章 お手伝いの麗花さん

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…… …… …… ……これじゃあ ……動物だ。 …… 昔、昔、僕が忌み嫌っていた、ここの人々と同じ事を僕はしていたのか…… 僕は……数年かけて……ここの間違った奴らと同じに成り下がっていたのか…… 言葉も、感情も、モラルも持ち合わせていない動物…… いつから僕はこんなひどい事を、さも当たり前のことのように、相手に感情が無いかのように、振るまえていたんだろう。 身体をくねらせて拒絶を示す女の子の片足を掴んで、無理やりに生で押しこみ、自身の快楽だけに神経を集めて、自分がいいように抑揚を続け、痛みを訴えた彼女の事など、どうせ嘘だろうぐらいにしか思わずに僕は構わず腰を振り、やがて、彼女の気持ちとは無関係にあふれた体液を潤滑油代わりに、更に僕は暴れ、そして、かまわずに…… 僕の欲望そのもののそれを、彼女の中で溢れさせた。 少しでも…… そこに人としての尊厳を見ていたら、そんな真似出来るはずも無くて…… 彼女が言う通り、僕は、彼女を、彼女の様な者を物としてか見ていなかったんだ…… 僕自身が、ここで暮らしていくうちに、物も心もなんの躊躇もなく、この国で奪われていった。悪意が当たり前に渦巻く、悪意の上に成り立った社会で僕は、自身の金と心を奪われながら行きついた、僕なりのこの国への答え。 それが…… 正しいと思う事は一切、この国ではしない。 悪意に満ちたこの世界では、善意は只の邪魔な荷物に過ぎなかったから。 奪われる前に奪わないと生きていけない。 そういう一面が有って、それを誰にでも適用できる、ここの間違った当たり前のモラルだと思ってここ2年は生きてきた。 その僕は、今。 僕が激しく動いて、その下で涙を流して、僕の彼女に対するその行為の仕方を、やり方に、涙を流している彼女の言葉で我に返った。 『わたし…… 嘘でも…… そんなのイヤ…… もっと…… お願いだから…… 嘘でも…… 噓でも優しく…… して…… 私は物になりたくない……』 僕の下で、僕がイヤらしく声を上げながら、欲望のままに腰を振るその下で、僕を見つめながら……当たり前の他人(ひと)への、当たり前の女性への、当たり前のSEXでの、当たり前の尊厳も敬意も何もかも顧みないでする動物の行為への涙の訴えで…… 僕は…… 自分の向ける復讐心を当たり前の様に誰にでも向けていいものだと心得ていた…… やられたら、必ずやり返す。 何十倍にしてでもやり返す。 家族、両親の安全をちらつかせる様な脅しをかけても、絶対にやり返す。 そんな定形句しか、聞いたことが無かった、この国で…… 物になりたくない……嘘でも優しくして……等と言われるとは思ってもみなかった。 当たり前のことなのに、がむしゃらに、復讐ばかり考えていた心に、僕の捨てられずにいた、子供の頃から培われていた人への尊敬を、尊厳を、涙にぬれる彼女を見て思い出していた。 僕は猛り狂った欲望を彼女に吐き出しながら…… 遅まきながら思い出していた。
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