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「下班了……」
ゆっくりと起き出した彼女は枕元にあったティッシュを取り出して、自分のそれを覗き込むようにして、拭っていた。
「今天……要上班吗?《今日も仕事?》」
「辞职、我不知道……」
背中向きのまま彼女は答えた。
ティッシュの塊を太ももの脇の白いシーツの上に転がして、彼女は知らなかったと、こんな仕事だなんて……知らなかった……と言って下を見て涙を落として喋らなくなった……
『君、住むところ有るの?』
『ない』
ここでは職場が衣食住の食住を提供するのが大多数で、仕事を辞めるという事はそれらを一瞬で無くすことになる。
ああ……
一度、取り戻した気持ちは中々、ひっこめる事など出来なくて……
僕は、彼女の懇願に答えなかった贖罪から、一つ提案をする。
少しおかしな話だ。
このまま、こんな気持ちで別れるのが、怖かった。
分からない……
けど……
彼女の事をもっと知りたくなった。
だから……
彼女の衣食住を僕が……
『それなら、ここに住まないか? ここで、僕の世話をしてくれたら良い。食事、掃除……』
僕の話に驚いた顔で今まで背を見せていた彼女がこちらに振り返った。
『本当?』
『ほんと』
『何で? そんな事?』
『……僕が、人に戻る為に、僕の心を、卑しいままにしたくなくて……
そのための、その為に君は、僕に間違っていると、間違っていたらおかしいと……
僕に言って欲しい……
そのために僕の近くにいて欲しい』
『それって、わたし、何したらいいの?』
『笑って一緒に暮らしてくれたらいい……』
『でも、それじゃ……
わたし、家事なら得意なの……
子供の頃からしてるから、だから……
お手伝いさんで、ここに置いて……』
『お手伝いさん……
そんなに仕事無いよ……
食事も外だし。部屋もこの通り狭いしね』
『……なら、洗濯、掃除! ご飯は部屋に帰って食べましょう! ね? 給料無しでいいですよ。私はここの専属住み込み家政婦という事にしませんか? 無給の』
『でも、それじゃ、君はどうやって生活するつもりなんだ? お金も無しに生きていけないよ』
『それじゃ、相場の半分で、これ以上はまけませんよ』
アハハと笑っている。
『ああ……でも、まずいよな』
『何がですか?』
『男と女が一緒の部屋で暮らして』
『もうしちゃったでしょう?
もしも、またしたくなったら……
いいですよ……
1回、200元で……』
『はあ?』
金か……
『嘘……』
この国ではお金で買えないものは無い。
正しいのか、間違っているのかは、議論してもこの国では意味が無い。
これが、この国のやり方なのだ。
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