第一章 お手伝いの麗花さん

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日本料理レストランの個室で僕にしがみ付いて、泣き腫らした目をやっと上げた小花に、僕は、 『小花? 僕の事好き? 嫌い?』 『好き』 『僕の事、世界で一番愛してる?』 『うん……愛してる』 『僕が言っている意味は、君と一緒に暮らしていきたいって、ずっとずっとずっと暮らしていきたいって意味だよ。君の断る理由は、書類一式揃えられないから、一緒に暮らしていけないって意味でしょう?』 『……』 『でもそれって、書類が無いと君は消えてしまうのかな?』 『……なんとなく、あなたが言いたい事が分かってきた。でもね……』 『君の問題は、この国の抱える暗部で、君が、君と僕が戦っても、いや、戦う以前にそんな問題はそもそも無いって言い方をするだろう。簡単に正面から戦って君と君たちの事を認めさせることが難しいくらい僕だって理解しているつもりだよ。この国のメンタリティーを考えれば、絶対に認めないと思う。でも、いつかは君たちに光が当たるんじゃないかなって、僕は全くの希望的な話で申しわけないと思うけど、責任が無くて申し訳ないと思うけど、そう思っている。だから、それまで君は誰に恥じるでもなく立派に生きて行けばいいと思うんだ。それが出来ないのが、この問題だって言うのも分かる。 そんな大きなことじゃない。僕の目の前にいる君を、君だけを僕は幸せにする。僕にとっては簡単な事だ。君が出来ない事は正規の仕事に就けない。チケットが買えない。アパートが借りられない。医者に診てもらえない…… いっぱいだね…… でも、この国で買えないものは無い。金さえあれば出来ない事は何もない。戸籍だって買える。金さえあれば、なんだってできる。幸い僕はこの国では、給料を沢山もらっている方だから、だから、君が出来ない事は僕と生きて行けば、何も……無い』 『そんな……あなたに迷惑しか掛かっていないよ。私にそんな価値は無いもの……無いよ……無いよ』 『ないかもしれないかね……でも、有るかもしれないよね?』 『私…… あなたの国に行く事も出来ないし…… あなたの子供を産んであげる事も出来ないし……』 『僕の子供は産めるよね』 『産んでも、またヘイハイズが出来るだけ……』 『ヘイハイズって日本にもいるけど、それって救済出来るよ、日本では。 問題なのは、ここの制度で、役人のメンタリティーで、人民の男の子偏重主義で、でも、それってやっぱりこの国だけのローカルルールだよ。いずれ、絶対にこの国も変わる。現に一人っ子政策はなくなったでしょう? 次に世間は君たちの様な存在に目を向けざる得なくなるんじゃないのかな……きっとそんな日が来ると思っている。だから、それまで僕のところで雨宿りしないか? 僕が君の苦労をお金で取り払ってやる。君は僕にその可愛い笑顔を向けてくればいい。お願いだ、小花。これからも僕の隣でずっと笑っていて欲しい。』 僕の胸でうずくまり、真っ直ぐな視線を僕に向ける僕の大好きな小花は唇を噛みしめて、ずっと僕を見つめ、華奢な細い腕を廻したまま、ずっと黙ったままだった。
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