NO!が言えない私のひみつ

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 「今なら安くできるんですよ。本日ご契約いただければ、さらに特典がつきます」  「はあ……特典ってなんでしょう……」  ああ、私のばか。  質問で返したらますます話がややこしいことになってしまう。  そうは思っても後の祭り。玄関先に立つインターネット回線の契約を持ちこむセールスマンは目を輝かせそのバッグから1枚のチラシを取り出した。  「ただいまご契約いただくと、こちら初月無料とさせていただきます」  初月無料。  あまり魅かれる特典ではない。  そもそもインターネット回線は現時点別のところにすでに契約済みで、その手続きすらもいろいろ面倒であったのを思い出す。回線の引き換えを行うのにあの苦労をまたするくらいなら、ひとまず今のままで十分だ。料金だって、今のところ許容範囲内だし。 断らなければ。  そう思い、手汗のにじむ手のひらをぎゅっと握る。あの、と。そう口火を切ったそのときだった。  「どうもどうも。今、あまりそれに関しては特段見直そうとは思ってないんだ。他を当たってくれるかい」  私の肩に置かれた大きな手。視界に落ちる高く細い影。  突然のあまり、声が詰まった。
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