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「……?」
コンビニの建物とその隣の軒先の間。雑草が満ち溢れたそのごくわずかな隙間から、頼りない小さな鳴き声が聞こえた。
気のせいかと思ったが、意識して耳を澄ますとやはり、動物の鳴き声が聞こえる。
「子猫かな?」
もしそうだとしたら、この雨に打たれて冷えてしまったら命が危ない。わたしはそっとその隙間を覗き込み、雑草の茂る中へ足を踏み入れた。
ぐるりと視線を彷徨わせ、軒並み伸びる野草という草たちを避けて避けて先へ進むと、そこには確かに丸まっている小さな動物がいたが、子猫ではなかった。
黒と茶色のもさもさとした生き物。たぶん哺乳類。耳は丸みのある三角をした形で、縁が黒い。鼻は長く手足の部分は真っ黒な毛でおおわれている。
その顔を覗き見たとき思ったのは、東京でも狸って出るんだ。
それだった。実家にいるときはよくみかけたけれど、まさかここで狸を見るとは思いもしなかった。
ミーミーとなく声は猫のようにも感じる。しかしどうにもその鳴き方がおかしいことに気付く。威嚇するわけでもなく、ただ不安げにあげられている声のようだった。
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