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私は狸の傍に座り込む。しかし逃げる様子はなく、じっとしたまま震えていた。
どうしたんだろう、そう思って向こう側の体躯を覗き込むと、右腹に血が滲んでいた。
この怪我のせいで動けないのだと思った私は、悩む間もなく手にしていたチューハイとつまみの入ったエコバッグを地べたに置き、バッグから着替え用のシャツを取り出した。まだ袖を通していない新品だけれど、命には変えられない。
そのシャツを上からかけるようにして狸を抱き上げる。そうまでしても、狸は抵抗することもなくじっと私の腕の中で丸まっていた。
よほどひどく痛むのだろう。それにシャツ越しに伝わるその体温はひどく冷たかった。
私はそのままバッグとエコバッグを引っ提げて、傘を被ることも忘れて家路へと急いだ。
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