4月 鈴蘭

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私立桜ヶ峰学園。静かな山奥に閉ざされた全寮制の男子校で、幼稚舎から付属大学まで存在するエスカレーター式のエリート校だ。偏差値も学費も高額。企業の御曹司や名家の御令息などが多く在籍している。高額な学費に加えて在籍している生徒の親御さんがこぞって寄付をする為、設備も揃っているしもちろんセキュリティ面も抜かりない。 そんな学園に、俺は入学してしまった。 暖かい春の日差しを全身に浴びながら、ずり落ちてきたリュックを背負い直す。目の前に見えるのは俺よりもずっと高い門。装飾が凝らされたそれはどこからどう見ても豪邸の門で、学びの場にはミスマッチ…とも言えないのが度し難い。パンフレットで見た校舎は西洋風の建築で、豪華過ぎるわけでも地味すぎるわけでもない均等のとれた美しい校舎だったから、きっとこの門との相性も良いだろう。 どうしてこんな所に来てしまったのかなぁなんて頭の片隅で考えながら、門についていたインターホンを押す。 「…おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」 「お忙しい所すみません。桜ヶ峰学園に入学する事になりました、特待生の鏡宮(かがのみや)依夜(いよ)です。本日入寮の為伺いました」 「…鏡宮様ですね。理事長からお話は聞いております。お待ちしておりました。只今迎えの者を向かわせますので少々お待ちください」 しばらくすると案内役の事務の方がやってきた。どうやら一度理事長の所へ顔を出して欲しいとの事で、理事長の元へと案内される。 西洋風な校舎は内装もまた西洋風だった。とはいえ現代的な造りが多くあり控えめなレトロさを感じさせる良い内装だ。結構好きかも。 色々と観察しながらついていくと、重厚感のある扉の前にたどり着く。ラスボスがいそうな所にラスボスがいそうな扉…うーん、ラスボスいるでしょここ。ゲームなら今セーブしてるだろうな…なんて考えていたら案内の方が扉を開き、中にいた秘書さんが俺を招き入れた。 「失礼します」 シンプルな家具で統一された部屋の中は家具が必要最低限しかなく、広々としている。その代わり部屋の壁には絵画や賞状などがならんでいて、かなり前の物も見受けられるから、譲り受けたものなのだろう。 それらを一瞥し、扉の真正面に置かれたデスクに座っている男性へと、体ごと視線を移す。 穏やかな笑みを浮かべた、青年とも呼べる彼こそがこの学園の理事長梵樹(そよぎいつき)だ。 名家の生まれで、20代後半という若さにも関わらず数多くの事業を成功させている敏腕経営者。今は先代から譲り受けたこの学園の運営に力を入れている。 「久しぶりだね」 「1週間ぶりを久しぶりっていうのかどうかは正直わかんないけど、久しぶりですね」 柔らかな雰囲気で挨拶をするその人はまさに好青年。実は大学生と言われても納得できる程、彼は若々しい。 「怪我はもう大丈夫かい?」 「それ一週間前も聞きましたよ。去年の夏の事だし、樹先生だってお見舞い来てくれたでしょ?あの時からピンピンしてるじゃないですか」 樹先生の過保護さに、苦笑しながら答える。 去年の夏、俺のストーカーだった女子に教室で刺され入院した時も、この人とは会っている。病室に飛び込んできた彼はそれはもうひどい取り乱しようで、怪我をした俺がドン引きする程だった。 「何度聞いても心配なんだ。あの時は本当に君が死んでしまうかと思ったんだよ。もう一生君の笑顔を見れなかったらと思うと…僕は…」 「あははっ、ほんと樹先生俺のこと大好きですね?大丈夫ですって、俺はあのくらいじゃ死なない死なない!」 先程の笑顔は消え去り、今はうっすらと眦に涙を浮かべている。 以前からそうだが、この人は俺に過保護すぎる。ほんの少し指を切っただけで取り乱して救急セットを持ってきたりするんだから、宥めるのが大変だ。 「あぁ、そうだね。君は死なない。君は僕の永遠のテーマだ。君の笑顔を最高の形で描き切るまで、僕は絶対に死ねないし、君も絶対に死なせないよ」 本当にコロコロ変わる表情だなぁ… 突然凪いだ様に真剣な顔を見せた彼は、この発言からわかる通り絵描きだ。 描くものは主に人物画。上手なのは勿論のこと、独特の世界観を持っているので画家としても生計を立てられる程には有名だ。 欠点を述べるとするなら、自分の描いた絵が好きすぎることくらいかな? 実物を目にしてもなんともないくせに、いざそれを絵画として完成させてしまうと、彼は性的に興奮してしまう。その位絵を愛していて、逆に生身の人間には興奮しない正真正銘、超ド級の変態だ。 しかしそれにも例外がある。それは一体誰? 俺!俺!俺!ole!ole!ole!ついつい真夏のjamboreeしちゃうよネ 俺だけはリアルでも興奮するとの事。どの瞬間を切り抜いても絵のようになるから、君はもう絵画そのものなんだよと力説された時は通報しちゃダメかな?と真剣に悩んだ。 ただ彼は俺を描けないのだと言う。元が完成しすぎていて絵にすると雰囲気が損なわれると言われた。その時の落ち込み方が凄まじく、描けるようになるまでモデルとして付き合うよと思わず言ってしまった位だ。 何故あんなことを言ってしまったんだろうと悩んでも後の祭り、覆水盆に返らず、手遅れ。 それからは週4位でモデルをお願いされ、徐々に露出が増えていき、ヌードも描くようになった。なんなら今ではヌードの方が多い気がする。おい、それで良いのか敏腕経営者
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