プレゼント

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プレゼント

 今年も母の日が近づいてきた。  この時期になると決まって思い出すことがある。  三年前のことだ。  当時、僕は二十二歳。結婚して半年が過ぎたころだった。妻の由香は高校の同級生で、その当時から付き合っていた僕たちは五年越しの恋を実らせて前の年の十二月にささやかな結婚式をあげた。ふたりでアパートを借り、贅沢はできないけれど、つつましくも幸せな生活を送っていた。  彼女の母にプレゼントを買おうと言ったのは僕のほうだった。  義母は世話好きでよくしゃべる人だ。  妻の実家が電車に乗って駅三つということもあり、このにぎやかな義母はよく僕たちのアパートに遊びにくる。反対に僕らが夕食をご馳走になりにいくということもあり、同居していないわりにはよく顔を合わせるほうだと思う。義母とはいうが気持ちの若い人で、妻とふたりで話している姿は親子というよりは姉妹ような間柄にみえる。僕自身もずいぶん面倒を見てもらっているし、こんなときぐらいは何か感謝の気持ちを伝えたい。  それに、これは僕の口から言ったほうがいいとも思っていた。  僕の両親は僕が高校を出てすぐに交通事故で他界してしまっていたからだ。そのことは当然妻も知っている。僕のなかではもうすっかり整理のついていることなので気遣いなどは無用なのだが、妻の口から母の日の話題がでることはなかった。  だから僕がお義母さんのプレゼントを買いに行こうと言ったとき、妻は本当にうれしそうな顔をしたのだった。                                   
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