天国に行く前に

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天国に行く前に

お父ちゃん 何にもしてあげられなくてごめんね ごめんね お父ちゃん 辛かったよね ごめんね もっとお父ちゃんの為に いろいろあれしてあげれない私で 申し訳なかったね 私きっとお父ちゃんにとって 駄目な酷い人だったよね 本当にごめんね ああ、良い人生だったなあ なんだ、あんた何を泣いてんだ またあんたは見当違いなこと言って あんたは何も分かっちゃいない 互いに、口を開けば喧嘩ばかりで 俺が手を上げたこともあったし 散々あんたを傷つけただろうに 見限ってくれてもよかったのに その方が楽な人生だったろうに それでもなんだかんだ いがみ合いながらよく今日まで 俺の相手でいてくれた 最後の最後まで お父ちゃんと呼んでくれた あんたがいなけりゃ俺は ただの耳の悪い頑固ジジイだ でもあんたが俺を そう呼んでくれるなら 俺は一家族のお父ちゃんでいられる 死ぬ最後までそんな人がいたこと あんたがいてくれたおかげで とても良い人生だった あんたが思うより あんたは駄目な人じゃない 死ぬまで俺のとこにいたんだ 死んでもまだそうやって 俺をお父ちゃんと呼んでくれるんだ 俺にはあんたしかいなかったよ こんなにも長い あまりに長い月日を こんな俺と連れ添ってくれてありがとう あんたを結婚相手に決めてよかったよ そうだ、俺があんたを選んだんだった そのことを忘れてくれるなよ あんたはまだ元気でやってくれ 俺がいないなら、いくらかゆっくり あんたの好きなように過ごせるだろう と、やはり俺の声は聞こえない 死んだ人の声は聞こえない あんたには届かない なんとも、やり切れない これはただ一つの、後悔かもしれない そんな泣いているあんたに 孫が話し始めた おばあちゃん、あのさ おじいちゃんがね、言ってたよ おじいちゃんがまだ独身の頃 おじいちゃんにはいい感じの人が 三人いたんだって それでね、 それぞれ食事に誘ったんだって 寿司とかビフテキとかパフェとか 美味しいもの何でもいいからって そしたらね、 私は一杯のラーメンで充分です って謙虚な人が一人いたんだって 当時はラーメン一杯五十円 他の人はデートに行くにも お金を使うことに遠慮ない人ばかり でも唯一おばあちゃんは お金とか生活の華やかさを求めない そういう根っからの 質素で飾らない人柄に 惹かれたんだって だから太郎君も 結婚するならそういう人を選びなさい って言ってた だからね、 おじいちゃんにはおばあちゃんしかいなかったんだよ おじいちゃんの側におばあちゃんがいてくれればそれでよかったんだよ もし俺がおじいちゃんの立場だったら おばあちゃんのおかげで ああ、良い人生だったなあ って思うと思うよ もうしっかり大人になった孫に 何故そんなことを話したのか いつも本当は、 一人で暮らしてる孫の話を聞きたいのに 気付けば俺が話してばかりで 孫はいつもよく話を聴いてくれるから 聴き上手な孫についつい口が滑ったのか きっと、孫の将来のことより 純粋に、自慢したくなったんだろうか それだけ理想の相手だったってことか でなきゃそんな話しないだろう そう、 そうだったの。 お父ちゃん、そんなこと言ってたんだ。 あんたは笑った これから 何もしてやれないのは俺の方だ これから 俺があんたを見守っといてやる これからも 俺はお父ちゃんとして側にいる
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