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男性は、ニッコリ笑ってお礼を言った。
「ごゆっくり、召し上がってください」
私も笑顔でそう返した時、ドアベルがカランカランと鳴った。
「いらっしゃいま……あー、久しぶり!」
ベージュのハーフコートに黒いマフラー姿で現れたのは、懐かしのマサトだった。
「よう。……なんだよサチ、アルバイトか?」
8年ぶりに会うマサトは、何も変わってないように見えた。
「そういうこと。お一人ですか?」
私はわかりきったことを聞く。
「ああ」マサトはコートを脱ぐと慣れた足取りで、ハンバーグを満足そうに食べる男性の一つ飛ばしで隣の席に着いた。「ハンバーグランチ頼む。フォカッチャとアイスコーヒーで」
「……アイスコーヒー?冬なのに」
私は伝票に書き込みながら笑った。
「好きなんだよ。別にいいじゃないか」
そういえば、ハタチの頃街へ出て2人でカフェに寄った時も、冬場にアイスコーヒーを頼んでいたことを思い出した。成人式で再会してから、初めてデートに行ったクリスマスイブの日の事だ。
「ライスよりフォカッチャ頼むあたりが、通だね」
フォカッチャはデミグラスソースによく絡んで、ハンバーグのお供に最適だ。相変わらず気が合うな、と私は思った。
「マドカの代わりにか?」
ナルに教えてもらった通り、コーヒーミールで豆を挽く私をよそに、マサトは店内を見回しながら言った。
「あら、私じゃ不満だった?もう8ヶ月目過ぎたのよ。仕方ないじゃない」
「バカ言うなよ、ただ聞いただけさ」
粉々になっていくコーヒー豆を眺めながらマサトがニヤリと笑った。
(友達に戻りたい)
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