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それが、私からマサトに切り出した別れの言葉だった。不満があったわけじゃない。だけど、マサトの心に近づけば近づくほど、その想いが強くなっていったんだ。マサトは、あれこれ何も聞きもしないで「わかった」とだけ答えて、早々に話題を変えたのを思い出す。もしかすると、マサトも同じ気持ちだったのかもしれない。間も無くマサトが東京に発つということも、きっと2人の決断に影響していたと思う。
「聞いたよ、同窓会の件」
「そうか。春頃に開催できたら、と思ってる。……サチの子供は?順調に育ってるか?」
「おかげさまで。毎日走り回って、もう大変」
私は大げさに高い位置からお湯を回し入れながら、コーヒーをドリップしながら言う。形から入るタイプだなと、私に淹れ方を教えてくれたナルは笑っていた。
「いい香りだ」ひとしきりコーヒーを鼻で堪能した後、マサトは閉じていた目を開いて呟く。「……だけど、俺が頼んだのはアイスコーヒーだぜ」
私は、慌てて傾けていたポットを元の姿勢に戻した。
「いけない。今日ホットばかりオーダーがあったから、つい」
「だろうな。いいよ、ホットで」
マサトは椅子にかけたコートのポケットを探り、タバコの箱を取り出しながら言った。
「ごめんね」カップにコーヒーを注ぎながら謝る。「春だったら、ちょうどマドカが出産した直後ね。あの子は来れないかも……。はい、コーヒーお待たせ」
私がそう言ってコーヒーをカウンターに置くと、マサトのスマホが鳴った。
ピリリリリリリ。
ピリリリリリリ。
「もしもし。……ああ、随分ご無沙汰だったな。今こっちにいないらしいじゃないか」
話の内容から、恐らく電話の相手が同級生だろう事がわかる。私はそのまま厨房に引っ込んだ。
「そうなんだよ。もう、ソウタから聞いてたのか」熱々のコーヒーを啜りながら、マサトは続けた。「で、どうだい。引き受けてもらえそうかな」
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