13人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやら、同窓会で演奏を頼みたいバンドのメンバーらしい。
「うん。うん。……うん、そうか。それじゃ仕方ないよな」
私は食器を洗いながら、不可抗力で聞き耳を立てていた。
「ハンバーグとサラダ上がったよ」
ナルが声をかけてきたので、声を潜めて聞いた。
「例のライブの件、コウヘイとは連絡ついたの?」
「え?ああ、いや、俺から連絡したけど返事が無くてさ。マサトが自分で頼む、って」
ナルは答えながら、冷蔵庫から次の注文のためにお肉を取り出しながら答えた。まだ13時を回ったところだから、まだまだハンバーグランチのオーダーが入るだろう。
コウヘイがイギリスに渡ってから3年。便りが無いのは元気な証拠、というやつだろうか。
「そうだな。じゃあ、日付が決まったらまた連絡するよ。その前に一度飯でも行こう。……ああ、わかった。ありがとな。また」
私がフォカッチャの入った皿もお盆に乗せてランチを運ぶと、ちょうどマサトが電話を終えたところだった。
「誰から?」
背中越しにそう聞きながら、カウンターテーブルにセットメニューを並べる。
「サトシさ。もう何年もドラム叩いて無いから、バンド出演はできないって。……当日は時間作って来てくれるらしいけどな」
残念そうにそう言いながら、彼はタバコの煙を吸い込んだ。
「そう簡単に、うまくいくわけないよな……」
マサトの様子を見て、私はたとえ気休めに聞こえてもいいと思って言った。
「そうかも、しれないけど。マサトがやろうとしてることって、すごくいいことだと思うよ。みんな……色々あるし、色々あったけど」そこまで言うと、彼がコーヒーを飲み終えるのを待ってから続ける。「……みんながみんな揃わなくたっていいじゃない。私は、旦那と子供も連れて見に行くよ」
私の言葉に、マサトは苦笑いした。
「同窓会なんだぜ。家族まで巻き込むなよ、サチ」
最初のコメントを投稿しよう!