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Third feel—サトシ
ソウタの演奏を生で聴くのは、6年ぶりだ。
コウヘイが求めるバンドのレベルに必死に食らいついていた僕だったが、その頃、限界を迎えようとしていた。ソウタのギターを間近で見ていたせいもあるだろう。
2人がどんどんグレードアップしていく中、自分の音楽のセンスを疑うようになっていた。ボーカルとギター、僕はドラムというバラバラのパートではあったものの、統一感というか、互いが高め合うようなバンドパフォーマンスに、ひずみが生まれ始めたのだ。
コウヘイとソウタとの力の差なんて、最初から理解していた。皮肉な事に、それが自分にも才能があると信じられる希望にもなっていた。だけどその差は、バンドを続ければ続けるほど広がっていき、ある時、それは埋めようのないものだと気付いてしまったんだ。
就職して、練習する時間が減ったという言い訳が通用しないのは、2人だって仕事の傍らバンドを続けていた事からも明らかだった。
プロに、なろうとしていた。その熱を失ったわけではなかった。ただ、自分の演奏というものが、自分らしさというものが、わからなくなってきていた。
コウヘイとソウタのせいじゃない。僕が、僕自身に……見切りをつけたんだ。
「最後の曲になります。みんな、最後まで盛り上がっていこう!」
客席に向かって、ソウタが呼びかける。ボルテージが最高潮を迎えていた観客達は、強烈な歓声でそれに呼応する。僕は、久し振りにライブハウスの雰囲気に酔いしれながら、その空間を創りあげているソウタを羨ましく思った。
「やっぱりすげえな、ソウタは」
熱狂の渦の中、マサトが隣でポツリと呟いた。
「……ああ。本物だよ、奴は」
僕は、この舞台にもし今も立っていたらと、自分の面影をステージ上に重ねながら答えた。
「サトシだって、何年か前まではそっち側の人間だったじゃないか」
マサトの脇から顔を覗かせ、ナルが言った。
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