Third feel—サトシ

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「過去の栄光ってやつさ。きっと、続けてても芽は出なかった。これだけの演奏をするソウタですら、音楽で食えてないんじゃな」  僕は、夢を諦めた負け惜しみを言う。 「俺は、サトシのドラム好きだったけどな。音楽の事は詳しくわからねぇけど、叩いてる時のお前がカッコよかったのは知ってる」 「……世界は広かった。って事さ」  僕がもっともらしい事を言って、この話題を終わらせようとした頃、最後の曲のサビに入った。その圧倒的迫力に、久し振りに音楽で鳥肌が立つ。  もし、あのままバンドを続けてたら、俺はどうなっていたんだろう。  後悔は無いはずだったが、僕は体を心地よく揺らしながら、そんな事を思い浮かべていた。 「マドカが言ってたよ。身重じゃなかったら、同窓会キーボードで参加したかったって」  ライブハウスを出た道すがら、余韻を味わいながらナルが口を開いた。 「確かピアノやってたもんな、あいつ」  僕は中学の頃の文化祭で全体歌唱した時、マドカがピアノを担当したのを思い出した。 「ああ。ピアノは実家から運ぶの大変だからって、結婚する時にキーボードを買ってさ。今も時々弾いてるよ」  ナルがそう答えるのを尻目に、マサトがメビウスに火をつけた。 「やめたんじゃなかったのか?」 「……辞めたくて人生の目標を諦めたわけじゃないからな。自分から辞めた事ぐらい、復活させてもいいかと思ってな」  僕の問いに憂の表情を浮かべながら、マサトはらしい言い回しで返してきた。  結婚してから毎日職場と自宅の往復を繰り返す僕にとって、ライブを見ること自体久し振りだった。とっくに音楽の道は諦めていたけど、胸の奥に熱い何かがこみ上げてきているような気がしていた。2月に入るとさすがに街の新年ムードもなりを潜め、今はバレンタイン商戦で賑わい始めている。 「最近はどうしてるんだ?」  歩きながら、僕は話題を変えてマサトに聞いた。
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