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「そういやナル、少し痩せたか?」
マサトはもちろん、ナルと会うのも随分久しぶりだった。
「お前が太りすぎなんだよ。モテモテだったガキの頃が嘘みたいだぞ」
「……うるせぇ、幸せ太りだよ」
僕の言い訳に、マサトは声を上げて笑った。
「ははは。懐かしいな。付き合ってはすぐ別れ、って繰り返してたもんな」
確かにそんな事もあったな、と中学時代を懐かしく思った。
「まぁな。あれこそ若気の至りってやつさ」
こんな日曜日の夜も悪くない。僕は、そんな風に考えながら足を止めた。
「……じゃあ、ここで。飯行く件、暇作れそうだったら連絡するよ」
ソウタのライブを見たからか、ナルとマサトと久し振りにあったからか……僕はわずかな名残惜しさを隠して、2人にそう告げた。
「ああ。寒くなって来たから、体調に気をつけてな。またコーヒーも飲みに来いよ」
ナルが上着のポケットに両手を突っ込みながら、改札を背にして言った。
「そうだな。嫁さん連れて、挽きたてを頂きに行くよ」ナルにそう答えてから、僕はマサトに目をやった。「イベント、成功するといいな。また詳しく話聞かせてくれよ」
マサトは、照れ臭そうに言った。
「名ドラマーにそう言ってもらえたら、励みになるよ。……またな、サトシ」
「言ってくれるぜ。……そんじゃな」
僕はそう答えて、踵を返す2人の背中を見送った。
マサトと話していると、自分だけが年を取ったような錯覚に陥る。昔は自分も、あんな風に何にでも前向きだったなと、考えながら。マサトは、何事からも逃げ出したくなるような重い病にかかってしまったというのに。
僕は2人が見えなくなるのを待ってから、帰る電車のホームへと向かった。構内の、シュークリーム屋が視界に入る。
「嫁さんに土産でも買っていくか」
そう言いながら店先に近づく僕は、無意識のうちにエアードラムを叩いていた。コウヘイとソウタとバンドを組んで、最初にして最高傑作だと信じて疑わなかった、あの曲だ。
馬鹿らしい、と自嘲気味に笑って、動かしていた手を止める。
きっと、マサトはあの曲をもう一度聴きたかったんだろうと思う。いや、そうじゃない。みんなに、聴かせたいんだったっけ。
「名ドラマー、か……」
僕は、とても懐かしい気持ちになりながらも、ソウタのライブ後にこみ上げてきていたあの気持ちが、今もまだ、胸の奥で熱を発したままでいることに気付いていた。
Third feel—サトシ
—end
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