Fourth feel—マサト

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 僕がそう答えた時、若い女性の店員さんが座敷にやってきた。 「お待たせしました、ご注文ですか?」 「はい。えーと、ウーロン茶と、生中ひとつ。あと枝豆と、ピリ辛きゅうり。唐揚げと、生春巻きもください」  僕はメニューを見ながら適当に注文を告げた。 「……はい、かしこまりました。先にお飲み物お持ちしますね」  店員さんは電子伝票に入力しながらそう言うと、座敷から引き上げて行った。 「実はさ、その辺のこともちょっと気になってて」 「?なんだよ、その辺のことって」  ナルが聞き返す。 「ナルもマドカが出産控えてるのに、こうして協力してくれるしさ。サチだって子供もいて大変なのに、同級生達に連絡回してくれたり……。サトシも、嫁さんがいる立場で、手伝ってくれることになってさ。ソウタだって、バンドで忙しいのに快く引き受けてくれて。……本当にこれでいいのかな、って」  僕は、力を貸してくれるみんなのことを思い浮かべながら言った。 「らしくないな。そんなこと気にしてるのか?」 「俺が、こんな病気になっちまったからさ。だから、みんなに気を使わせてるの、申し訳ない気持ちになってきたんだよ。それぞれ、仕事や家庭もあるのにな」  僕はそう言いながら、2本目のメビウスに火をつけた。 「お前が病気だからみんな協力してるって言いたいのか?そりゃ。みくびりすぎだよ。みんな、お前がやろうとしてることを応援してるだけだぜ」  ナルはそう言ってくれたが、勢いに任せて無理をお願いしている事に、僕は今更ながら罪悪感のようなものを感じていた。 「なんか、独りよがりって言うかさ。病気の事があってから、何か目標のみたいなものが……何か、残せるようなものが欲しくてさ。ずっと、その事ばかり考えてた」そこまで言うと、僕はタバコをひと吸いしてから再び口を開いた。「無理にでも前向きになろうとして、今回のイベントを思いついたけど。なんだかんだ、自分勝手に周りを巻き込んでるんじゃないか、って」  ナルは、黙って話を聞いていた。
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