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水みたいな生き方……。自分は、本当にそうやって生きて来れたんだろうか。
ナルと別れた後、僕は天戸川にやってきていた。水面に滲む控え目な町の夜景を、眺めたくなったからだ。
役者を目指したのは、親父が舞台作家だったから、という理由も大きかった。小さい頃から演劇を目にする機会は多かったし、小さい頃から役者に興味を持っていた。親父が亡くなった事を機に、親父が遺してくれたものを引き継ぎたいという思いも芽生えたんだ。
滔々と流れるこの天戸川のように、目立つやり方ではなかったけど、親父なりに愛情を注いできてくれた事を、亡くなってから初めて気付いた。当時は仕事一辺倒に見えてはいたけど、自慢の親父だった。親父が書いた脚本でたくさんの人が感動し、たくさんの人が勇気付けられているのを、間近で見てきたからだ。
親父もきっと色んなことにぶつかり、水のように流れを変えながらも、自分の信じるもののために、守りたいもののために進み続けたんだろう。早すぎる死だったけど、もしかすると親父にとっては満足のいく人生だったのかもしれない。今なら、そう思える気がする。
人間の体の7割は水だと、何かで読んだことがある。親父から受け継いだ血とともに、僕の体の中のほとんどが水で構成されているんだ。だったら、水のように生きられるはずだ。ナルが言ってたみたいに、流れを変えたり、枝分かれしたり、必要とされるところへ進んだり、傷ついた過去を、洗い流したり。
僕は思った。
きっとこの病は、僕に必要なものだったんだ。水になったような気持ちで生きていく、その意義を知るために。
例え、新しい記憶が増えにくくなっても。例え、忘れたくないことを忘れてしまっても。そうなったらそうなったで、受け入れるしかない。だからこそ、僕という人間を作り上げたこの町に、家族に、同級生のみんなに、恩返しがしたいんだ。
僕は天戸川の流れに、絶望に苛まれながらも自分の体中に駆け巡る希望を重ねながら、ひとり、そんな事を考えていた。
かつてない試練が、足音も立てずすぐそばまで忍び寄ってきている事も知らずに……。
Fourth feel—マサト
-—end
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