Fifth feel—マサト

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 とめ、はね、はらい。まるで洗練された書の書き手のように、キレのある腕の動きによって、2メートル四方ほどのキャンバスへみるみるうちに絵が描かれていく。スピーディでありながら正確、大胆でありながら緻密。久しぶりに竜崎さんの見るペインティングの迫力に、僕は改めて驚いていた。 「かっこいいですよね、竜崎さん」  隣で、さっきのペインターの女性が呟いた。絵自体もさる事ながら、そのダイナミックな描き姿を前にすれば、同意せざるを得なかった。 「海外からオファーがくるのも、頷けます」  照明が赤、青、黄色と目まぐるしく変化する中、キャンバスの絵も徐々に大きな形を成していく。  そこへ、ビキニのような露出度の高い服装に、顔、腕、腹、足と、全身にトライバル模様のような青の蛍光塗料でボディペイントが施された、ダンサーのヒカリさんが現れた。  バンドの低く重たくもメロディアスな演奏に合わせて、流れるようにナチュラルな舞いで呼応する。つま先から指先までエナジーを行き届かせるように、全身を回転させながら舞台狭しと、流れるような動きで竜崎さんのペインティングに華を添える。  気付けば、キャンバスには巨大な龍の姿が現れていた。照明が抑えられ、キャンバスにのみスポットライトが当たる。バンドサウンドも最高潮を迎え、さらに激しくなるのに合わせ、蛍光塗料によって青い光の渦のようになったヒカリさんのダンスも、スピードと回転がさらに増していく。  何か神聖さすら感じさせるヒカリさんという名の美しい巫女は、キャンバスに浮かび上がる龍の神を降臨させるべく踊り狂う、芸術の螺旋と化していくのだった。  心臓にまで響く重低音に心臓を鷲掴みにされながら、その様子を眺める僕の脳内はじんわりと熱くなり、ドロリとした濃密な快感が、頭から全身を駆け巡るような感覚に囚われる。
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