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冷えた水をゆっくりと喉に流し込みながら僕の言葉を聞くと、ミネラルウォーターのパッケージを眺めながらヒカリさんは答えた。
「水、ですか……。いいですね、色々とイメージが湧きそうなテーマで」
額に少し汗を浮かべながらそう語る彼女の表情はとても綺麗で、僕は柄にもなくドキドキしてしまう。あれだけのパフォーマンスを見せつけられた後だったから、余計にそう感じたんだろう。
「お声をかけて頂けて光栄です。いいイベントにしましょうね、皐月さん」
僕の目をまっすぐに見つめてもう一度笑うヒカリさんの瞳には、まさに僕の希望となり得る、強く、美しい光がはっきりと宿っているように思えた。
竜崎さん達に後日詳細についてのミーティングを約束させてもらうと、挨拶とお礼を終えて、僕はライブハウスを後にして地下鉄へ向かっていた。
ソウタやサトシの演奏と、竜崎さんのインパクトあるライブペイント、ヒカリさんの神々しいダンスを、どのようにして組み合わせるか。僕の頭の中は、もうそのことでいっぱいだった。声をかけてくれたペインターの女性を覚えていなかったという一抹の不安も、幸か不幸か、すでに消え失せていたんだ。
ピリリリリリリ。
スマホが鳴る。
ピリリリリリリ。
ナルだ!
そう思ってスマホを手にすると、そこには意外な人物の名が表示されていた。
「コウヘイ……!?」
イギリスへ渡ったという、音楽センスの塊のようだった同級生、コウヘイ。半ば諦めかけていた彼からの連絡に、僕は心躍った。
失われゆく自分の記憶に刻み付けようと、みんなの心に水のようなメッセージを届けようと、力強く動き出した希望のイベント。いよいよそれが、実現の兆しを見せ始めていた。
この時起こっていたあまりにも残酷な現実を、まるで、僕の目から隠そうとしているかのように。
Fifth feel—マサト
-—end
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