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スクランブル交差点の雑踏に埋もれながら、ひとごとみたいな都会の喧騒をよそに、僕は自分が空っぽになっていくような感覚に、ひとり、囚われていった。
※※※
「落ち着いたな。メシ、先に食べときなよ」
ランチタイムラッシュを終えた午後2時過ぎ。ちょうど仕込んだ分が全て出たドリアセットの空き皿を、キッチンへ下げに戻ったマドカに声をかける。
「うん、ありがと。今日のまかないは?」
マドカは食器をシンクに置きながら、楽しみそうに聞いてきた。
「ミンチの余りで、ボロネーゼかな。チーズたっぷり」
パスタを寸胴鍋に放り込みながら、僕は得意げに応える。
「やった!ナルのボロネーゼは、絶品だからね」
窓から差す西日にキラキラと表情を照らされながら、マドカは子供みたいに笑った。
カランカラン。
純喫茶を謳う当店自慢の、昔ながらのドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませー!」
キッチンからカウンターに顔を出し、マドカが元気に言う。
「あら、久しぶり!……ナル、ソウタくんよ」
……ソウタ?火にかけようとしていたミンチ肉を戻すと、僕もマドカの陰から顔を出す。
「よう。今週は夜勤か、ギタリスト」
「うっすー。音楽でメシが食えてないバンドマンにピッタリなブレンドの、あつ~いコーヒーを淹れてくれるかい」
ソウタは自分で皮肉りながらそう言った。
「まかしとけ、売れるように願掛けながら淹れてやる」
僕の言葉に、マドカはクスリと笑いながらキッチンへ戻った。
「珍しいじゃないか、去年の夏以来だっけ?」
コーヒーミールに豆を入れながら、僕はソウタが彼女を連れてきた真夏日の事を思い出していた。
「そうだな。美味いアイスコーヒーだった、って言ってたよ」
彼女からのお世辞を伝えながら、ソウタが笑った。
「そいつはどうも。ウチは挽きたて使ってますからね」
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