Six feel—マサト

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 単なる記憶違いだろうか。いや、それを忘れていたとして、コウヘイから聞かされた今も、その事を思い出せないのはおかしい。 「……マサト?聞いてるか?」  ホームの喧騒がどこか遠くから聞こえてくるような、奇妙な感覚に囚われながら、気がつくと僕は押し黙ってしまっていた。 「あ、ああ。聞いてるよ。すっかり忘れてたよ、そんなこと」慌てて返事をした時、ちょうど乗り込む電車がスピードを落としながらやってきた。「とにかく、4月の最終日曜が本番日だからさ。なんとか日程調整頑張ってくれよ」 (脅かすわけじゃないですが、皐月さんの場合、逆行性健忘の症状を併発する可能性が高いかもしれません)  僕は担当医の言葉を反芻して動揺しながらも、落ち着いた口調でコウヘイにそう告げた。 「わかった。日本に戻る目処が立ったらまた連絡するよ。じゃあ、またな」 「……ああ、また」  胸に去来する不吉な思いを色濃く感じながら電話を切ると、目の前で電車がプシューッと音を立てて停まった。 「まさか、嘘だろ……これからって時に……」  降りてきた乗客たちが、呆然と立ち尽くす僕の肩にぶつかりながらすれ違ってゆく。  その時だった。  ピリリリリリリ。ピリリリリリリ。  再び、電話が鳴る。  と同時に、プルルルルルとけたたましく発車のベルが鳴った。  僕は停止線から一歩離れて、スマホの画面に目をやる。 「……サトシ?」  イベントの件で何かあったのかと思って、僕は電車をやり過ごすことにした。 「もしもし」 「……マサトか。さっき、ソウタから聞いたよ」電話に出るなり、サトシはぶっきらぼうに言った。「水臭いじゃないか。お前も、知ってたんだろう?」 「ま、待てよ。いきなり、なんのことだ?」  まったく話が見えない。車掌が笛を吹き、電車が出発しようとしていた。
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