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「……サチやソウタから、そっちにも連絡がいくと思う。……きっとあいつら、お前にはあえて隠してたんだよ。ナルが、お前のやろうとしてるイベントに水を差したくないとでも、言ったんだろう」
電車が行ってしまい、さっきまでの人混みが嘘のように利用者がまばらになる。僕は返事もせずに、その場に立ち尽くしていた。
「マサト?……大丈夫か?」
イベントだって?そんなこと、どうでもいいんだよ、ナル。
俺は、お前がいたからここまで来れたんだ。
お前がいつも、そばで俺を支えてくれたから……勇気付けてくれたから……。
お前さえいてくれたら、他のことなんてどうだってよかったんだ。
役者として成功したかったのも、マドカを安心して任せたのも、病に冒されてももう一度奮い立って同窓会を企画したのも……全部、お前がいてくれたからなんだよ。
「どうして……どうしてだよ、ナル……」
僕は人目も憚らず、その場にうずくまり、頭を抱えた。
悪い夢でも見ているようだった。
ナルが、僕に何も言わずに死んでいったなんて。
何も言ってもらえず、ナルに置いていかれてしまうなんて。
「マサト!おい、返事しろ!」
水のような生き方……。そんな事、もうどうでもよかった。
希望を求めて立ち上がろうとした僕の心は、ナルとの唐突な別れによって、かつてない絶望の渦に飲み込まれようとしていた。
Sixth feel—マサト
—end
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