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確かに、そうだった。もちろんプロと遜色ない、とまでは言えなかったかもしれないが、曲も、歌詞も、演奏技術も、驚くほどクオリティが高かったのを覚えている。
「俺もそう思ったよ。嬉しい反面、嫉妬もしたな。コウヘイなんて、ボーカル力が買われて、今はイギリスだぜ」
マサトが目を丸くする。
「そうなのか?……そうか。そりゃ、知らなかった……。すげぇなあいつ」
「バンド再結成でもしてもらうつもりだったか?」
僕はマサトの真意がまだ飲み込めていなかった。
「……俺が、本気で役者を目指そうって決めたのも、あいつらのライブを見たのがきっかけの一つだったんだ。伝える力っていうか、心に何かを響かせる力っていうか。それを、感じてさ。俺もこんな風になりたい。いや、絶対なってやる、ってな」
8年という、長い年月。マサトがその間役者業をひたむきに邁進し続けられたのは、そういう思いもあったからなんだろうと、僕は思った。さっきまで天戸川に吹いていた風が、いつの間にか止んでいることに気付く。
「役者の道は断たれちまったけど、俺はさ。この町で一緒に育ったみんなに、理屈じゃなく、心に伝わるエネルギーがあるんだって事を、証明したいんだ……」そう言いながら、マサトは再びメビウスに火をつけた。「東京で過ごしてる間に演劇はもちろん、色んな形のライブイベントを見てきてさ。商業ベースに乗っていなくても、本物はいるんだって事を、知ったんだ。そういう人達と出会えたことが、俺の役者人生の意義だったのかもしれないって、思うんだよ」
僕は黙って話を聞いていた。
「コウヘイや、ソウタみたいにさ。ガキの頃から一緒だった同級生達にも、人を感動させる力があるって事を、俺が知り合った色んなアーティストや役者の人達とコラボする形で、同窓会ライブイベントとして、みんなに見せたいんだよ」
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