Second feel—サチ

1/5
前へ
/50ページ
次へ

Second feel—サチ

「ハンバーグランチ上がったよ!」 「はいはい!」  厨房からの大声に、威勢のいい声で返す。私はカツサンドとオニオンスープのセットを配膳し終えるところだった。土曜日のランチタイムは特に店内が混雑し、ピーク時はいつもこの調子だ。 「マスターの新しい奥さん?」  カウンター席に腰掛けた初老の男性が、手厳しいシャレをかましてくる。 「まさか。……2人の同級生なんです。今大変だから、手伝いに来てるんですよ」  私はカウンターの上の空いた皿を重ねながら答えた。 「そうかそうか。もうすぐ生まれるのか」  何やら事情に詳しそうなので、きっと常連さんだろう。 「私も毎日来れるわけじゃないけど、ちょうど子供も幼稚園行きだしたばかりなんで。昼間は時間があるんです」  テーブルを拭きながらそう言うと、私はこの店一番の人気メニューを厨房へ受け取りに行った。  お店でお肉をミンチにして、いわば挽きたてのビーフ100パーセントで提供しているのが、評判になっているのだ。ナルが何年か前にたまたま入った軽食フレンチで、同じものを食べて感銘を受けたらしい。  挽きたてのミンチのハンバーグに、挽きたてのコーヒー豆。これは売りになると思って、実家のこの喫茶店を継ぐ気になったそうだ。調理関係の専門学校を卒業していた事も、きっとそれを手伝ったんだろう。 「お待たせしました」  初老の男性の前にハンバーグランチを差し出すと、男性は濃い茶色のニット帽を脱いだ。 「やあ。これが食べたかったんだ」  ほんのり湯気の立つ分厚いハンバーグには、食欲をそそる赤ワインを使ったデミグラスソースが香っていた。これにライスかフォカッチャ、サラダの小鉢と、スープかドリンクがついて900円。商店街の喫茶店としては決して安い金額設定では無いが、ハンバーグのクオリティを考えればお世辞抜きにお得だと思う。 「ありがとう。いただくよ」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加