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「うちの家系はある特殊な魔術を継承してるんだけど、いわゆる一子相伝ってやつでね。今、継承争いの真っ最中なのよ」
「お、おう。……特殊な魔術ねえ」
魔術自体は珍しいわけでもない。治癒魔術、属性魔術、精神魔術などすべては系統化された技術であり、平民でも扱えるやつはちらほらいる。
だがあくまで技術系統。一般的に整理されて公開されている以外の、世に認められていない魔術というものも多岐に渡って存在しているのだ。
「外道魔術士の家系ってわけか」
それらは強力ながら重い代償が必要だったり効果自体が忌まわしかったりとクセが強く、ひとまとめに道を外れた魔術、すなわち“外道魔術”と呼ばれて忌避されている。
そんなものを研究してるなんて知られたらまともな街には住めないだろうが、ここはドルガノブルク。役人への袖の下さえ忘れなければ何者だろうと快適に暮らせる自由の園だ。
「そうなの。それもけっこう嫌われてる系のやつ」
「いいから勿体ぶらずに言えよ。継承争いってことは斧女、コリンも使うってこったろ」
成果のためならなんでもやる外道魔術。だからこそ戦いに使えるなら例外なく強力だ。当然秘匿したいだろうが、手の内は可能な限り明かして貰わなければ勝機を見いだせない。
キリシャは迷う素振りを見せたが、それも僅かのことですぐに腹を括る。
「“生贄魔術”。魔力はあればあるほどいいけど術式そのものは簡単よ。本当に必要なのは覚悟だけ」
「覚悟?」
名前の時点ですでに嫌な感じがひしひしとしてくる。
「その名の通り生贄、生き物の一部分がいいんだけど、捧げるには生贄の同意が必要なの。だから基本的に他人の身体や知性の低い動物、死体は使えない」
俺はすぐにコリンの不自然な服装、異形の長柄斧を思い出す。
「あいつは左腕を生贄に捧げたのか」
彼女は神妙に頷いた。
「正解よ。それも指の関節ひとつずつから始めて、前腕も上腕も丹念に鉈で輪切りにしてね。生贄は重要な部位であるほど、そして細かく刻むほど精度が上がるわ」
外道魔術も数あれど、なるほどこいつはドン引きだ。
「“錻力の乙女”コリン。……姉さんは失った左腕を錻力で補い、さらに必要なだけ生み出して操ることが出来るの。斧も姉さんの能力の一部よ。もし奪ったり破壊できても意味がないわ」
「強烈だな。で、こっちのカードは?」
強力な魔術ではあるが、継承争いってくらいだから当然キリシャもなにかしらの力を得ているはずだ。なにを生贄に捧げたのかぱっと見ではわからないが、そういった擬態のできる能力なのかもしれない。
「……ない」
「は?」
まったく想像していなかった回答に目を丸くする俺に対して彼女は気まずそうに顔を伏せ、視線だけをこちらに向けて愛想笑いを浮かべた。
「私、まだ使ってないの。だからなんの能力もないわけ」
俺はちょっと気が遠くなった。
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