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「…あ、ぶな」
身体の不調は、予期せぬ言葉を口から漏れさせたりするらしい。あんな面倒な尋ね方、最悪すぎる。
――あれは完全に、戸惑ってる顔だった。
何年も抱えてしまった思いと、重ねた時間を詰め込んだ瓶は、もうずっと蓋がうまく閉まらない。
油断すると簡単に溢れてしまいそうになって、私はその度に慌ててまた、なんとか押し込める。
それを幾度となく繰り返している。
今日は気が緩み過ぎたと、先程の不自然な空気を思い出して後悔に苛まれる。最近伸ばしっぱなしの髪を耳にかけて、深呼吸を挟んだ。
「……あー、ピアス、」
その拍子に、耳元の寂しさに気がつく。そうだ、さっき取りに帰ろうとしたのに。あの男のせいでまた自分の記憶からすっ飛ばしてしまっていた。
今更引き返すことも出来ないし、今日は無しで過ごすしかないか。
『それが似合う奴に、お前はなれるよ』
「…最悪」
―――私には"あれ"が無いと。
もうとっくに、
真っ直ぐに立てない気がしている。
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