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「ご飯食べれるか?」
「うん」
頷いたモブ山が俺の持つビニール袋に視線を落とした。
「……買いすぎじゃない?」
「まぁ、食べれんだろ。はい、お前の分な」
おにぎりとオレンジジュース、好きそうな菓子パンを手渡して、残ったものを適当に取る。
「いただきます」
手を合わせたモブ山は、丁寧に包みを剥がしておにぎりを口にした。
「凄く美味しい」
強ばっていた顔が緩む。美味しい、美味しいと言いながらあっという間に食べ終わったモブ山にほっとした。
「焼きそばパン一口食う?」
「欲しい。代わりにメロンパンあげるね」
パンを交換してみたり。トランプでマジックを披露してみたり。
せめて昼休みが終わるまで、モブ山が何も気にせず過ごせる様に。神経を張り巡らせて、言葉も。声音も。表情も。全部に気を配って接する。
「そろそろ戻るか?」
授業開始十分前。様子を見つつ声をかける。
穏やかだった表情が途端に引き攣って、顔が青ざめた。戻りたくないと拒絶反応が出ているのに、モブ山は戻ると口にする。
この学園は成績さえ取っていれば、モブ山の奇行くらいは目を瞑ってくれる。逆に言えば、成績を落とせば口を出される。
奇行をする事で、フラグとやらを回避しているつもりなのだ。奇行が出来なくなると言うのは、恐怖でしかないのだろう。
だから、授業に出ざるを得ない。
死にそうな顔をして、今にもぶっ倒れてしまいそうな顔をしていても。その先にある恐怖がデカすぎて、逃げる事すら出来ないのだ。
モブ山に、もう少しだけ考える余裕があれば良かったのに。
そうだったのならば、こんなにも追い詰められずにうまく立ち回る事が出来た。あの両親なら。モブ山の事を目に入れても痛くないくらい愛して、大事にしているあの親達なら、愛娘が頼み込めば転校なんてあっさり許してくれる。
何時でも逃げ出せる手札は持っているのに、モブ山はそれに気付けない。
「……教室まで送るから、何かあれば連絡しろ」
握りしめて白くなってしまった手を傷付けない様に解いて、両手で包む。
「……ありがとう」
小さく笑ったモブ山の手を取って、俺ももっと手を回しておこうと決めた。
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