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それなのに何だ。この体たらくは。
死にたくない。
怖い。
助けて。
大丈夫だと声をかけ続けても、夢の中にいるモブ山には届かない。死人の様な色の顔を歪めて。硬く閉ざされた瞼からはとめどなく涙が流れていた。
「……巴様」
控えめな呼びかけに顔を上げる。俺も酷い顔をしているだろうが、きっとこいつも同じか、それ以上に酷い顔をしているだろうと確信して振り向く。
「ははっ、ひっでぇ顔」
いつもの涼しい顔は何処へ行ったのか。俺の忠実な僕の滅多に見ない顔に乾いた笑いが漏れた。
「……申し訳ありませんでした」
目が合うや否や、目元に力を入れて頭を下げた浅葱の肩を叩く。
「いや、これはお前のせいじゃない。俺が甘かっただけだ」
具合が悪くなったモブ山を保健室までちゃんと送って、保険医に自分と俺以外の人間に接触させない様に頼んで。俺や他の駒に連絡を徹底して、教室に戻る。何一つとして非がない。
最近モブ山に接触していなかったあいつらが、まさか保険医を誘導してまでモブ山と接触しようとするなんて思わなかった俺の甘さが招いた結果だ。
あの時、駒からの連絡を受けて駆け付けた俺と僕の目に飛び込んできたのは。あいつらに囲まれてうつろな目をしていたモブ山だった。
両手を黄瀬に握られたままで頭垂れている姿はまるで、罪人が死刑執行を待っているかの様に生気がなくて。臓物が一瞬にして冷えきった感覚がした。
「……蘇芳」
二人が驚いた顔をして俺を見る。まさか俺が現れるかなんて思いもしなかったと、そんな顔をしていた。
「何してんだよお前ら」
押さえて、押さえて。掌に爪を立てて、今にも掴みかかってしまいそうな自分を死に物狂いで取り押さえる。
「……何してんだって聞いてんだけど?」
口角を無理矢理吊って、声を少し高くして。
なけなしの理性を使って表面上だけでも自分を保つ。
モブ山のためだ。これ以上モブ山に怖い思いをさせないためだ。
お前らの為でも、お前らを許したわけでもない。
限界まで精神を張り詰めさせて、一歩。モブ山の元へと踏み出そうとして。
「彼女をどうするつもりだ」
思わず動きを止めて、赤羽を見やる。
まるで、ヒロインを救わんとするヒーローの様な顔をして。
アイツは俺の前に立っていた。
……あぁ、もう本当に目障りでしょうがない。
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