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「パパ、もういなくなっちゃったの?」
翌日、満里奈が育恵に尋ねた。
「うん、天国に行ったんだよ」
日付が変わる頃、克也の霊は姿を消したと御堂刹那は言った。決して怨みや憎しみからではなく、彼は純粋に満里奈と育恵を心配してこの世に留まっていたのだ。彼は自分の死を自覚すると、イブの間だけは満里奈といさせてくれと頼んだという。そして彼は約束通り姿を消した。それが成仏なのかどうかは、刹那にも判らないらしい。でも育恵は、克也が天国に旅立ったと信じている。
「でもね、パパは天国からいつでも満里奈とママを見守ってくれてるの」
満里奈は少し寂しげに、コクンとうなずいた。
これで良かったのだ、改めて育恵は思った。ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故に遭い、克也は命を失った。だが、育恵と満里奈は彼に突き飛ばされ、軽傷で済んだ。
そして一昨年と去年、クリスマスが近づくにつれ不可解な事が起こり始めた。そこで以前所属していたタレント事務所に相談したのだ。社長の姪に霊感があり、副業として拝み屋をしていると聞いていた。
育恵の予想通り克也の霊はこの家にいた。しかし、彼は何か言いたいことがあるわけではなく、ただ娘と一緒に過ごしたかったのだ。家族を愛する克也らしいと思った。しかし、いつまでも彼を留めておくことは出来ない。自分と満里奈も前に進まなければ。
「ママ、だいじょーぶ?」
不安げに満里奈が見上げている。
「うん、平気。心配かけてごめんね」
育恵は満里奈を抱きしめた。そうだ、克也は天国から見守っていてくれる。自分たちの人生はまだまだ続く。
でも、今日はまだクリスマスだ。もう少しだけ愛する人との思い出に浸っていよう。
-Finー
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