1章 始まりの手紙

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「それで今回の仕事は何だってんだ」 「人探しですよ」 「人探し? なんでそれをお前に頼む」 「さらったのが人じゃないからです」  さらったのが人ではない。しれっと言うことではないが鷹一郎は陰陽師だ。だからそういうことなのだろう。  朝の一番には随分不穏な話題。納豆をかき混ぜながら話すことじゃぁない。  鷹一郎に依頼の手紙を見せてもらったが、どうにも要領を得ない。茶屋で働く千代という娘がいなくなった。それは逆上村の奥にある妙な林だか森だかのことらしい。逆上村というとここから歩いても小一時間もかからない。 「これからその逆上村に行こうっていうのか?」 「いいえ。いきなり行って危険なものだったら困るのは哲佐君でしょう? だから最初は下調べです」 「下調べ?」 「そう、この千代という娘は生まれ育ったはずの村で『存在しない』ことになっている。だから私は本当に『存在するのかどうか』を調べてきます。その間に哲佐君には買い出しをお願いします。はいコレ」  存在するのかどうかを調べる?  そんなことは行ってみりゃすぐわかるだろ。けれども下手に首を突っ込めばろくなことにはならないことは確かに身を持って知っていた。  渡されたリストを見てすこしうんざりする。  いずれもこの近辺で手に入るものではあるが、合わさると重量物だ。確かに俺が買い出しを担当する方がってやつだな。  鷹一郎の細っちろい腕を見てそう思う。 「それで八つ半(午後3時)に件の二東山の峠茶屋で待ち合わせしましょう」  そう言い捨てて、鷹一郎は振り返りもせず立ち去った。既に金を受け取った俺に決定権なんてものはなかったのだ。
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