プロローグ

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プロローグ

 彼、販売一課の宮坂(みやさか)課長はとてもいい声をしている。今年で確か五十二歳。見た目も悪くない。すらりとした長身に涼やかな目元。少しクールな感じのする彼は既婚者ながら女子社員からも人気がある。  私はそろそろ五十になろうかという、所謂アラフィフだ。結婚もしている。なのにいつの間にか彼に恋していた。いい歳して、と笑われてしまいそうだが職場で彼の声を聞くとつい夢想してしまう。あの人の指先が私の頬にそっと触れるのを。あの人が私を強く抱き締めて「愛してるよ」と囁くのを。 「中島君、この書類来週までに頼むよ」  彼が部下に指示をしているのを遠目に見てそっとため息をつく。ああ、あの声を誰にも邪魔されず、ずっと聞いていたい。やっぱり私は……あの声が好き。
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