夢想

１．夢想

「河野(かわの)さん、その書類今日中にできそう？」
　不意に声をかけられドキリとする。宮坂課長は見た目だけでなく声まで素敵だ。確か今年で五十二歳になるはずだがもっと若く見える。中年太りとは無縁なすらりとした体型のせいだろうか。若い頃はさぞかしもてただろうと思わせるイケメンだ。今でも女子社員から人気がある。
「あ、はい、大丈夫です。できたらお持ちしますね」
　私ももうすぐ五十歳。こんな年になって何をドキドキしているのだろうかと自分でも笑ってしまう。この販売一課でもうかれこれ五年以上一緒に仕事をしているのだが最近になって妙に意識するようになってしまった。
「課長、午後から出張でお戻りは週明けですね。お気をつけて」
　課長は「ああ」と言って微笑む。ダメだ、胸が苦しい。出張でしばらく不在だと思うと出社する気すら失せてしまう。私はそっとため息をついた。