2.ダイエット

1/5
前へ
/10ページ
次へ

2.ダイエット

「あれ、智子(ともこ)ったらダイエット?」  ランチタイムは会議室に女性社員が集まる。同じアラフィフで仲のいい山野(やまの)香織(かおり)にそう声をかけられ頷いた。彼女は隣の販売二課に配属されており私と同じ営業事務の仕事をしている。販売二課は同じフロアの隣の島。課長は女性だ。香織は私と同世代ながら、ずいぶんだらしない体になってしまった私と違い若い頃の体型を維持している。羨ましい限りだ。 「うん、昨日鏡見てこれはヤバイな、と思って」  そう、何気なく目にした鏡に映る自分の姿にゾッとした。昔より10キロは太っている。顎も二重顎。これじゃ私のことを女として見てくれる人などいないだろう。 (やっぱりまだ“女”として見られたい。変わらなくちゃ)  課長のことを意識するようになってから余計にそう思うようになった。そもそも私が課長のことを意識し出すようになったのは香織の言動も原因のひとつだ。「智子って課長と仲いいよね」「宮坂課長、智子には甘くない?」なんてことを何度か言われるうち、妙に意識するようになってしまった。でも流石にこんな気持ち、香織にも言ってはいない。きっと笑われてしまうだろう。 「年取るとさ、代謝が悪くなるのかなかなか瘦せないよね。私も油断するとすぐに体重増えちゃうし。昔は2、3キロぐらいすぐに痩せたのになぁ」  うん、そうそうと私は相槌を打つ。香織はおにぎりをぱくつきながら「やっぱりさぁ」と続けた。 「だんだん女って感じじゃなくなっていくよね。年取ると仕方ないのかなぁ。あ、そうでもない人もいるか」  首を傾げる私に香織は言う。 「ほら、うちの坂本(さかもと)課長。彼女も確かもう五十歳よ! でも綺麗よねぇ。女っぽくてさぁ。役職もついてて格好いいよなぁ」  販売二課の坂本課長は十歳は若く見える長身の美人だ。でもヒステリックなところがありよく部下を怒鳴る声が聞こえる。確か数年前に離婚しているはずだ。 「でも結構キツイとこあるよね。香織もよく怒られてんじゃん」 「そうなのよねぇ。もうちょっと言い方考えてくれれば、とは思うよ。でも宮坂課長とは仲いいよねぇ。宮坂課長を呼ぶ時は『宮坂くぅん』だもの」  香織は馬鹿にしたように笑う。ランチから戻ると宮坂課長が出張に出かける準備をしていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加