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「あ、課長そろそろ時間ですね」
そう言う私の声に被せるようにして坂本が声をかけてきた。
「宮坂くぅん、いこっか」
え? と思わず声が出そうになった。そうか、この出張は本社で三日間行われる課長会議のため。坂本も出席するのは当たり前だった。
「おお、向こうでランチでもするか」
笑い合う二人を見て思わず妄想する。宿泊先のホテルで二人が同じ部屋に入っていくところを。重なり合う唇、熱い吐息を。私はギリリと唇を噛みしめて二人の後ろ姿をいつまでも見ていた。
その日私は憂鬱な気分で仕事を終え、帰宅してからも妄想に苦しめられた。
(今頃二人は……)
妄想はどんどん具体的に、そして淫らになっていく。
「おい、夕飯はまだか?」
夫の間の抜けた声に苛々しながら夕飯の支度をする。
「私は食べないから、勝手に食べて」
「またダイエットか。ちょっとは食った方がいいんじゃないか?」
「いいの! 放っておいて」
職場で何か言われたのか? と笑う夫を無視していると「やれやれ、お前は思い込みが激しいからなぁ。誰も五十過ぎたオバサンの体型なんて気にしてないさ」と鼻で笑われた。
「うるさいっ!」
こうなったら本格的にダイエットだ。私は心に誓った。
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