第一章 没落華族と大戦成金

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1.葵衣  「お嬢様、葵衣(あおい)お嬢様!  お早くお支度くださいませ!  女学校に遅刻なさいますよ!」  私付きのメイドのお(たえ)が朝っぱらから飽きもせずに怒っている。  「う~ん…もうちょっと…」  「そう仰って、もう30分も長く寝ていらっしゃいますよ!  東大路(あずまおおじ)の若様がお迎えにいらっしゃっています。  お早くお起きあそばしてください!」  「えっ!()だ!  それを早く言ってよ!」  私はお妙の言葉に急に目が覚めて、慌てて飛び起きる。  浴衣のしごきに手をかけて思い切り引っ張り「くるし…」と呻いた。  お妙が「締めてどうするんです」と呆れたように言いながら、しごきを緩めてくれてそのまま解いた。  矢絣の着物に紺色の袴に着替え、お妙が髪を庇髪(ひさしがみ)に結って可愛らしい蘇芳色のリボンを飾ってくれる。  「お嬢様も紫色の提灯袴をお召しになって良いと思いますけど…  華族のお嬢様の学校にお通いなのだし。  何と申しましても、あの東大路良馨(あずまおおじよしか)様とご婚約なさっておられるのですもの」  「無理よ…  お妙はあの女学校の現実を知らないから、そんなことが言えるのよ」    私はため息をつく。  鏡の中に、憂鬱そうな表情の、いかにもお金持ちのお嬢様然とした16歳の少女が映っている。
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