実用化

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実用化

「僕がこの飛地に越してきたときね。古田さんと池山さんも同時に越してきた」 「うん。知ってる。学者さん同士仲がいいんだな、と思ってた」 「まあ、そうだね。でも、それだけじゃなくて」 「うん」 「僕たちにはそのころからちょっとした計画があった」 それは丁度、古田さんが人工重力の実用化理論を発表した直後のことだったらしい。巨大なドラムを回して作られる遠心力を変換し、地球の重力と反対方向の向きに働かせることによって、反重力が作られる。理論上、その反重力を用いると、重力との間で力が打ち消しあうことによって、物は宙に浮く。 「その実用化をね、僕たちはずっと計画してきた」 「それで、あんないろいろな専門家」 「そう。システムエンジニアと設計技術者の土橋夫妻、航空工学の真中さん、パイロットの宮本さん、電気技師の稲葉さん、土木会社社長の広沢さんに腕利きオペレーターの飯田さん。次々に、計画に賛同して越してきてくれた」 「ああ。でも」 「ん?」 「小早川さん夫妻は?」 「国際政治学者と、国際法学者」 「うん。なんで?」 「それはね。僕たちは、国籍離脱を合法的にできないか考えたんだ」 「あ。ああ」 「多分、今後、この国と僕たちは様々な交渉をしなければならなくなる」 「そっか」 「喉に餅を詰まらせて同志がいなくなるのは困る」 「うん」 「あや、よろしく頼むよ」 「はい」
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