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池山さん
私は話し終えてうろたえていたようだった。
それでも涙が出ないのは大人になった証拠か。
「思ったほど、落ち込んでないみたいで」
「え?」
「安心したよ。あや」
いつの間にか私の前の小さな丸テーブルには、大福餅とペットボトルのお茶が置いてあった。
「食べて。池山さんが持ってきてくれた」
「池山さん。あ。あの、大きい」
「そう。よく覚えてるね」
池山さんはのっぽのエネルギー物理学者だった。やっぱり飛地に住んでいる。私は昔、空き地でバトミントンの勝負をしたことがあった。快活で豪快に笑う気持ちのいい人だった。
「食べて」
「はい」
私は大福に食らいついた。
普通こんな時は食欲がなくなるものじゃないのだろうか。
私の危機とは一体何だったんだろうか。
それとも、この場所になにかパワーが秘められているのだろうか。
「ははは。あや、おなか減ってたの?」
困ったことに大福は滅茶苦茶おいしかった。
「僕の分も食べていいから」
祖父の手から渡された大福を私は遠慮なくほおばった。
「さっきまで私はもう駄目だと思ってた」
「ははは。僕も若いころはしょっちゅうだったよ」
「ありがとう」
「ははは」
「おじいちゃんってすごい」
「いやいや」
「あとね。この場所に何か特別な力が秘められてるんじゃないかなって、今思った」
なぜか祖父は、お茶を突然噴き出したのだった。
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