国籍

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国籍

「大丈夫?おじいちゃん」 「あはは。ああ。びっくりした」 祖父はしばらくせき込んでいたけれど、落ち着くとゆっくり話し始めた。 「あのさ。あや」 「はい」 「僕たちは、この飛地に住んでて、税金は東京都に払ってる」 「あ。うん。前に聞いた。ごみ収集車も練馬区から来る。でも、水道代は新座市に払ってる」 「そうそう」 「それが?」 「水道は使った分を払う。これは常識」 「はい」 「でも、税金はどうなのってね。何に対して払ってるんだろう」 「ああ」 「払った税金が効率よく正しく使われてると思う?」 「ああ。どうだろう」 「僕はそうは思わない。ちゃんと使ってほしい。でなきゃ払いたくない」 「うん」 「税金は、日本人として暮らしてるなら払わないとならないよね」 「うん。私も今は払ってる」 「でもさ、あや。自分は日本人として生きますって、決めたのはいつ?」 「え?決めたことなんてないよ、そんなの。生まれた時からそうだもん」 「だよね。ここに生まれたからって、本人の了承もなく、日本人」 「生まれたときは言葉もしゃべれない赤ん坊だから」 「うん。そうだ。でも」 「でも?」 「ここに生まれて、外国の人と結婚するんでもなく、国籍を離脱できるとしたら?」 「そんなこと考えたこともない」 「普通は考えないな」 祖父は腕時計を見た。 「そろそろ。あや」 「あ。ごめんなさい。帰ります」 「気を付けてね」 その時だった。
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