大福

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大福

「どうしたんだ?」 「なんかあったのかな?」 階下が俄かに騒がしい。 ばたばた、どたどた、誰かの大きな声も聞こえる。 私は急いで階段を下りた。 「あ!あやちゃん!そっか、あやちゃんはお医者さんだ!」 声を上げたのは、古田さんだった。 「どうしたんですか?」 「小早川さんの奥さんが大福を喉に!」 「あ!」 見ると初老の婦人が八畳間のテレビの前で横たわって悶絶している。 誤嚥だ。 でも、大丈夫。意識はある。 私は急いで彼女に駆け寄った。 「奥さん!咳をしてください!」 私は、彼女を座らせて俯かせた。 「掃除機を!」 私は彼女を俯かせたまま、背中を叩き続けた。 早く出ろ!早く出ろ! 「奥さん!咳をして!咳!」 早く!! 「咳です!!咳をして!!」 私は大声を上げて、背中を強く叩いた。 「ごぼぼぼぼぼ」 出た! 餅が唾液とともに吐き出された。 そして、気道が通った彼女は大きく息を吸い込んだのだった。 「ひゅううううう」 彼女を抱えたまま私の体から力が抜けたのが分かった。 よかった。 そんな私を、のっぽの池山さんが掃除機を持って見下ろしていた。 「そうか。俺たちには医療を担当する人間がいない」
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