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東京都練馬区杉菜町8391番
「ええと。それじゃあ」
私はいつの間にか大テーブルが置かれた八畳間の座敷に、古田さんと祖父の辻伸介に挟まれ、床の間を背に座っていた。
「ええ」
古田さんが口を開いた。
「ええ。ここに集まっているみんながこの東京都練馬区杉菜町8391番、別名練馬区杉菜町飛地の全10世帯、12名です。ご存じだとは思いますが、あやちゃんに紹介しないとね」
私は頭を下げた。
みんな笑ってくれている。
さっき餅をのどに詰まらせた小早川さんの奥さんは、私に深々と頭を下げた。
「まず、あやちゃんを皆さんにご紹介します。気象学者、辻さんのお孫さんです。内科のお医者さんで今は総合病院で働いてらっしゃる」
古田さんは、私の肩を叩いた。
さっきまで絶望の淵にいたのに医者と紹介され、私は小さくなってしまった。
「あの。私は」
「いいのいいの。病院で何があったか知らないけれど、小早川さんを助けてくれた。もう立派な一人前のお医者さんです」
拍手が沸いた。涙が出そうだ。
「さて。では、あやちゃんに皆さんをご紹介しないと」
古田さんは、右の手前の丸い艶のいい顔の老人に手の平を向けた。
「真中さんです。航空工学の学者です」
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