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テスト開始から待つこと約三十分。俺はシャーペンを意味もなく動かし、頭を悩ませるふりをしては、先生に気づかれないように後ろを確認していた。
先生はというと、最初の方こそ教室中を歩き回りながらプレッシャーを与えていたが、それも飽きたのか、今や教卓の椅子に座って眠たそうに本を読んでいる。先生の関心が薄れている今がチャンスだ。
教室に響く筆記音の中、かさかさと紙を折り曲げる音を、俺は聞き逃さなかった。先生の視線を確認したのち、佐藤を横目に見る。
佐藤もこちらを見ている俺に気づき、視線で合図を送ってきた。
残り時間約十五分。そのうちの五分間はテストを回収する時間に充てられるとして、実質十分となるわけだ。わずかとも思われる時間だが、答えを写すだけなら充分。
俺は人知れずニヤリと笑った。
先生が舟をこぎ始めたその時、佐藤が消しゴムを放る。
これで三十五分にわたる攻防は終わりを迎えた、かに思われた。
なんと、消しゴムは俺の左手にかすりもせず、斜め前の席にまで転がっていく。
そして俺は思い出した。奴は頭脳に関しては言うことなし。だがしかし、体育の成績、それも球技に関しては全くの役立たずだということを。
(おああああああああああっっっ!!)
声にならない声が頭の中に轟く。
なんてことをしてくれたんだ。と怒りを込めた視線を佐藤に送ると、これまた悪びれもなく、ヘラヘラと笑っていた。
それに加えて舌を出し、右手の拳で自分の頭をこつんと叩くしぐさといったら、もう、腹の立つことこの上ない。
「ふわぁあ」
だが先生の欠伸に、その熱も一気に冷めてしまった。
今は佐藤にどんな制裁を与えるかなどと考えている暇はない。早く次の一手を考えなくては!
俺はまず姿勢を低くして手を伸ばした。しかし全く届かない。
次に両腕を椅子の両端について、足をあらんかぎり伸ばす。しかし、あと少しのところで届かない。
もうだめだ。諦めかけたその時、前の席の机の”あるもの”が目に入った。
線引きだ。線引きがある!
神からのお告げといっても過言ではない閃きだった。机の中の筆箱を探ると思った通り、十五センチの長さを持つ線引きが入っていた。これなら例え机の上にあったとしても怪しまれることはない。英語のテストで必要ないだろうと言われたとて、「筆記用具です」の一言で片が付く。
いくしかない!
俺は左足の靴下を脱いで、親指と人差し指の間に線引きを挟んだ。
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