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――残り時間もあとわずか。この数分に俺のすべてをかける!
遡ること四十分前、俺は友人の佐藤と駄弁りながら、貴重な休み時間を無駄に過ごしていた。
「次は英語か。そろそろ準備しないと」
「授業始まってからでも間に合うだろ、あの先生いつも遅れてくるんだから」
その時、佐藤の”いつも”という言葉に違和感を覚えた。俺の知る先生は、他の教師と同じように、始業時間ぴったりに教室へ現れていたはずだ。
遅れることがあるとすればそれは急な用事やど忘れ、そして……。
俺は”そう”ではないことを願って佐藤に問いかける。
「あのさ、今日ってもしかして……」
「あ、テストだよ。昨日言わなかったっけ?」
聞いてない!!
悪びれる様子もなく、佐藤はヘラヘラと笑った。
「昨日、俺が早退した後なんかなかったか聞いただろ?! なんで言わないんだよ!」
「ごめんって。 俺もさっき思い出したんだよ」
佐藤は「お相子だろ」と付け足した。いいや、ちっともお相子なんかじゃない。俺と佐藤の頭脳レベルは天と地の差だ。もっと言うと月とスッポン、クジラとイワシ、雪と墨、五十歩百歩!……はちょっと違うのか?
とにかく、もともと頭の出来がいい佐藤と万年赤点の俺とじゃあ、そもそものスタートラインが違うのだ。
それに英語の授業は俺の一番の苦手教科で、授業中に行われる小テストや提出物やらが、年度末の成績表に大きく影響するという特徴がある。
期末テストに弱い俺にとってはうれしい特徴かもしれないが、それは事前の準備があってこそ。俺は小テストであろうと、一夜漬けのテスト勉強をしなければ点数を取れないタイプなのだ。つまり、先生が来るまでのたった数分の勉強じゃあまったく歯が立たない。下手したら零点もありえる。
やばい。
零点なんかをとってしまっては、成績ダダ下がり、成績表を見た両親からの叱責、ひとつ上の兄貴からの嘲笑。そんなの堪ったもんじゃない!
何とかしなければ。こうなったら手段を選んではいられない。
「じゃあ俺、自分の席もどるから」
「まてっ」
俺は前の席に座っていた佐藤が立ち上がるのを引き留めた。
覚悟は決まった。もうやるしかない。
「協力してくれ」
カンニングだ!!
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