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彼女と出会ったのは、大学の中庭だった。 この年、テニス同好会にしては珍しく、女子会員が少なかった。 そこで、男子会員の私達も女子生徒の勧誘をしろ、と中庭に呼び出されたのだ。
「テニス同好会です、一緒にやりません
か。」
私の呼び掛けに振り向いた女子生徒は、爽やかで美しく、ふわりといい香りが した。
「すみません、私、陸上部入ってるので。」
耳に心地よい澄んだ声で、いっそ清々しい程あっさりと断られた。 これが彼女との出逢いだった。
彼女のことが忘れられなかった私は、用もないのに他の学部を覗いたり、ふらりと陸上部の練習を見 に行ったりと、気が付けばいつもその姿を探していた。 そしていつしか、ほんの少しずつだが話しをするようになっていった。
三年生になったある日、中庭で私は思いきって彼女に声をかけた。
「あの…よかったら、二人で食事…一緒に どうですか。」
またあの声で断られると覚悟していた私は、彼女の顔を見られずにいた。
逃げ出したい衝動を抑え、心の中で歯を食いしばる。
「ええ、行きましょう。」
彼女は、涼しげな目を細め、暖かいやわらかな笑顔で応えてくれた。 私の喜びは想像を越え、それから先の覚えが無いほど有頂天だった。
その後何度かの出逢いを重ね、程なく私たちは恋仲になった。
それからの日々は、何もかもが今までとは違っていた。幸せな今日が終わることを惜しみ、少しでも早い明日を切望するほど、毎日が輝いていた。
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