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「一緒に歳を重ねようって言ってくれたのに…」
火葬場の外で一人、そう呟く。
入り口横にある大きな桜の木はすでに蕾をつけ始めているが、首筋を通り抜ける風はまだ冷たい。
泣きたくなるほど澄み切った青空の下、キュッと口の端を固く結んだ。
この世界に自分は一人きりになってしまったような、まるで突然異国へと放り出されたような、そんな感覚に全身が蝕まれていくような気がした。
「要ちゃん」
突如背後から名前を呼ばれ、私は肩をびくつかせ振り返った。
「あっ…」
そこに立っていたのは、白髪交じりの髪を後ろで綺麗に結わえた50代くらいの女性。立ち姿からも品の良さが伺える。この人は確か……。
「春も近付いているというのに、まだ肌寒いわよね。風邪引いちゃうわよ。もう少し時間がかかるみたいだから、中で待っていたら?」
「…はい」
頷いては見たものの、柔らかな表情を作ることはできず、誤魔化すように目を伏せる。
この女性は……そうだ。修ちゃんのお父さんの弟さん、その奥さんだ。
通夜の席で一度挨拶を交わしたキリだが、名前を覚えていてもらえただけでも恐縮なのに、こうして気遣ってもらえることは本当にありがたい。……ありがたいけれど、できれば今は一人になりたい。
言われた通り施設の中へ足を踏み入れてはみたが、私は親族の人達が集う待合室とは反対方向へと体を向けた。
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