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「要ちゃん、良ければこれ」
その場を足早に過ぎ去ろうとしたその時、女性は一枚のチラシを私の前に差し出した。
「グリーフ…ケア?」
淡いクリーム色の紙面には
"グリーフケアサポート わかちあいの会”
と記されている。
…グリーフケアってなんだろう。初めて耳にする言葉だ。
「実はね、私も一年前に実の妹を亡くしたばなりなの。…突然の交通事故だったわ。親を早くに亡くした私にとって、妹は唯一の肉親だった」
ポツポツと語りだしたその女性は、手に持っていた紺色のハンカチをギュッと握りしめたまま、話を続ける。
「最初はただただ茫然としていたわ。何が起こったのか分からなくて、まさか歳の離れた妹の方が私より先に逝ってしまうだなんて…。けれど日が経つにつれ様々な感情が襲ってくるようになったの。喪失感や虚無感…そんな単純な言葉では簡単に言い表せないような、様々な感情に。
主人も気にかけてはくれたけれど、やっぱりこればかりは経験した者にしか分からない。そう思うと誰も私の気持ちなんて分かってくれないような気がして、すごく孤独だったわ」
…何が言いたいのだろう。
私にならあなたの気持ちが分かるとでも言いたいのだろうか。
伏せ目がちでそう語る彼女の姿をじっと見つめる。
女性がパッと顔をあげた瞬間、潤んだ瞳の彼女と真っ直ぐに目が合った。
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