86人が本棚に入れています
本棚に追加
「今は誰に何を言われても、きっと何も考えられないと思う。でもね、これから先一人じゃどうにも立ち上がれないほどの、感情の波が押し寄せてくる瞬間があるかもしれない。そういう時は一人で抱え込まず、こういった場所を頼って欲しい。もちろん、私のことも。私で良ければいつでも話を聞くから」
そう口にした女性は、持っていたハンドバッグからメモ紙を取り出し、そこへ自身の携帯番号を書き連ねた。
「何かあればいつでも連絡してね」
「…ありがとうございます」
"要らない”とは言えず、私はその紙へ手を伸ばし浅く頭を下げる。
女性もそれ以上深入りしてくることはなく、会釈をしてその場を立ち去って行った。
一人残された私は、ぼんやりと貰ったチラシを見つめる。
「大切な人を失った者同士、哀しみをわかち合える場所を目指します…か」
…誰かに、話したくなる瞬間なんて来るのだろうか。
立っているのがやっとの今、この気持ちを誰かと分かち合いたいだなんて到底思えない。…ううん、そもそも今自分が悲しいのかどうなのかすら、よく分からない。
「全部全部、夢だったらいいのに…」
チラシを握りしめ、ポツリとそう呟く私の背後では、ゴォっと火葬炉の音がくぐもっている。
この現実を、全く受け入れられない。…受け入れたくなんて、ない。
最初のコメントを投稿しよう!